The Portraits

Illustation / Inkjet prints on paper  2022年

ある肖像:2022年7月8日午後6時58分 奈良市 毎日新聞(オンライン)

ニュース報道によって拡散されたイメージをモチーフとして作品制作をしたのは2017年がはじめでした。

<It’s a small world.>というコラージュ映像作品で、米ユナイテッド航空がオーバーブッキングを理由に乗客のアジア人男性を無理やり引きずり下ろした、という出来事を題材としていました。

<It’s a small world.>のコラージュ元の映像は、流血場面を含む非常に暴力的な映像で、事件を伝える一般市民によるTwitterで瞬く間に世界中に拡散されたものです。私はその事件の報道内容と共に現場映像を、手に持ったスマートフォンのスクリーンで眺めました。そのショッキングな光景について、非常に暴力的でひどい出来事だと即座に思いはしたものの、こうしてスクリーンのこちら側で、何ならベッドやソファにでも寝転がってそれを眺めている大勢の人の存在、そちらの方がよほど恐ろしく暴力的なのではないだろうか、と考え込まずにはいられませんでした。でも画面のこちら側の方がよほど残酷で暴力的だ、なんてナイーブなアイデアだよな、などとも思っていました。しかしながら現実は私のナイーブな想像をもはるかに、早々に越えきてしまったことは2022年の現在言うまでもなく明らかです。

私の作品制作の動機は、事件そのものに対する善悪の問いかけではありません。事件の外側にいるその他大勢の一般市民がそれをどう「眼差す」のか、ということへの継続的な興味関心であり、その試論として制作のプロセスがあります。

<ある肖像:2022年7月8日午後6時58分 奈良市 毎日新聞(オンライン)>は元首相が銃撃され死亡が確認されたその日の晩に、一般市民が事件現場に献花に訪れている、という様子を報道する一場面をイラストレーションにしたものです。元となっているイメージは写真で、毎日新聞のオンライン版で見ることができます。

その写真を見た時、私は非常に心を掴まれました。理由は色々あるのですが、全てを上手く説明することはできません。

一番わかりやすいところでは、その写真の、なぜ献花の主が長い黒髪の、ピンク色のワンピースを着た、一人の若い女性なのか。わざわざカバンを地面に置いて手を合わせる姿。これがスーツ姿のおじさんでは意味が違って見えるでしょうし、ふくよかなおばさまでもこのシーンの印象は違って見えることでしょう。

その写真が興味深いのは、写っていない人物=元首相こそが依然としてその写真の主題であるということです。そしてその写真に収められて示されたシーンによって、元首相はどのような人物であったとポジティブに想起されることが、この報道において意図されているのです。

もちろんその意図通りに受け取られない可能性も多々あるでしょう。写真のキャプションに示された時刻の早さから、この女性はやらせではないかと推測する人もいます。しかしながらどのようなネガティブな解釈がなされうるかよりも、私はニュースが写真で何を見せようとしているのか、その意図、さらに言えばその意図を叶えうるニュースというものが持つ潜在力にこそ注意を惹かれています。私にとって、その仮想的な潜在力を話題にできる格好のイメージとして、その写真は現れました。